- 住職のつぶやき
- 2021年6月3日
『かばい手の思想』に心震えて
大田仁史先生の本を読ませていただきました。
『かばい手』とは、相撲で相手を倒すとき、その相手が土俵にドンと倒れることが危険だと判断した力士が、相手のことを手でかばってけがを負わせないようにすることだそうです。勝負の世界から、優しい思いやりを感じることができます。
太田先生は、整形外科のお医者様ですが、リハビリテーションにもご尽力されておられます。そして、医療的治療だけでなく、病気や事故の後遺症で片麻痺になった方々と交流し、心からのご支援をされて、様々な集まりや旅行会にも同行されたり、まさに『かばい手』の実践をされておられます。
バラの空間
宇宙船地球号に乗った運命共同体の一員として、その地球を癒すために先進国にいる私たちが日常出来ることは、物については「節度と我慢」を、人に対しては「共に生きることの誠意」を示すことです。それは、強いものが弱いものを芯から「かばう」ということ。地球を「バラ色の地球」にするには、自分の小空間を「バラの空間」にしながら、それを積み上げる。(中略)私たちは、社会的弱者との空間も「バラの空間」として共有する努力がいるのです。
生きる力
淋しさは、人から生きる力を奪い去る。再び力を得るには人との触れ合いが不可欠。生きる力は人と人との間にこそ生まれる。
今のつらさを耐えるには
目標を持つことは、未来に気持ちが開かれていることであり、(中略)生きがいは未来に関心が強いほど大きいといえる。どんなに小さくても目標を持たないと、生きていく力が沸いてこない。目標があるから今のつらさを耐えることもできる
大田仁志著『こころにふれる』荘道社1997年発行 参照
善了寺のデイサービスにも病気や事故の後遺症で片麻痺になられた方、お年を召してゆーーっくり伝い歩きしかできない方、車いすで移動される方たちがおいでになっておられます。時には、「こんなはずじゃなかった」「いっそ、倒れたあの時にあのまま助からなければよかった」などと、弱音がこぼれることもあります。また、口に出して言われないまでも、心の奥に苦しみを抱えておられる方もおられるでしょう。その方たちの本当の苦しみは、当事者にしかわからないほど、とても深刻なものだと思います。しかし、せめてせめて、倒れそうになったときに『かばい手』をさしのべられたらと、大田仁志先生の職責を越えた熱い思いに心震える思いがしました。
善了寺 坊守