観賞用に拾ったイガ栗。秋らしい見た目も、話のネタにもいいかなと思い、飾っていました。
ところが、ある好々爺(*)がそのイガからぷっくりした栗の実を器用にとりだし、鬼皮を剥き、身を割ってガブっとかじったんです。
「!?」
想定外のことに驚きましたが、当人はどこ吹く風。「栗はこのまま食べられるんだよ。これがうまいんだよ」と仰いました。私は彼の半分程しか生きていませんが、生の栗を食べる人を目にするのは生まれて初めてでした。「もしかして何かと勘違いして…」失礼でしたが、疑いのまなざしを持ってみてしまいました。
*好々爺(こうこうや):やさしくて人のよいおじいさん
○栗を生で食べる文化がある
栗は生で食べられるのかインターネットで調べてみたところ、国内の事例は探せませんでしたが、お隣の韓国では栗を加熱しないで食べる習慣が現在もあるそうです。
韓国では生の栗を食べるのも特徴です。生栗のビタミンCがアルコールの分解と代謝を促進し、二日酔いにもよく効く為お酒の肴としてもしくはお酒を飲む前に生栗を食べると効果的であると言われています。
韓国で主に育てられている栗は日本と同系統の品種です。同じ東アジアの人種でもありますし、韓国人が食べられるなら、日本人も生の栗を消化できそうです。
「おいしい」と言われて好奇心が勝ってしまった私も、試しに食べて見ることに。あっさりした甘みと、サクっとした歯ごたえ。癖がなく、生ナッツの中では甘みがある方かなと思いました。間違って渋皮さえ嚙まなければ、意外とおいしく食べられる味でした。
○生で食べられる木の実もある
栗だけでなく、どんぐりにも生で食べてもいいものがあります。子ども用の絵本に載っていました。
しいのみ 生でももちろん食べられますが、フライパンで炒って食べるとなお香ばしい。
スダジイのほかに、マテバジイ、シリブカガシ、イチイガシ。
そういえば以前、自然教室のガイドさんに教えてもらって、娘としいのみを食べたことがありました。スダシイのどんぐりはアクがなく、殻を剥いて食べるとほんのり甘く食べやすかった覚えがあります。どんぐりに比べれば、栗は可食部が大きく糖度も高いです。
スダジイのどんぐり
○時代や文化的な背景によって
私の前で生栗を食べた方は、戦前の長野で生まれ育っています。「お菓子を買えなかった時代だから、身近にあった栗を食べていた」と仰っていました。彼にとっては、里山に実る桑の実やアケビを食べるのと同じ感覚のようでした。経験的に食べられると学んでいった素朴な時代の生きる知恵です。
食べられるか食べられないかで言ったら、生の栗は食べられるのです。私が知らなかっただけで、慌てて止める必要はありませんでした。疑いの目でみて申し訳ないと思いました。
今は食べるものがたくさんありますし、栗につく虫やアレルギーなど気掛かりが多い人は、敢えて生の栗を食べなくていいと思います。けれども春の山菜を食べるように、秋の実りを体に取り込む方法のひとつとして面白い経験でした。これまで出会ってこなかった食べ方に驚きと敬意を表して。
参考
韓国農水産食品流通公社 https://www.atcenter.or.jp/chestnut
「そだてて遊ぼう クリの絵本」 あらきひとし編 農文協 2007
「どんぐりだんご」 小宮山洋夫 福音館書店 1984
「どんぐりノート」 いわさゆうこ、大滝玲子 文化出版局 1995
寄稿者 ほりえりえこ
湘南在住。小学生の娘と暮らしています。今を大切に。日々のなぜ、なに、どうしてを大切に。心が動いたこと、子どもに伝えたいことを書いています。