8月も終わりに近づき、早朝と夕方には幾分か涼しい風が吹くようになりましたね。子どもたちもそろそろ新学期が始まります。

まだ日中は30度を越えますが、日が暮れてくると、どこからともなくリーリーリーと秋の虫の声が聞こえてきます。人間界ではクーラーを手放せない日々なのに、自然界はもう秋なのかと、ちょっと取り残された気分になりました。そこでハッとしました。まだカナカナを聞いていない!

「カナカナカナ・・・・」
夏の夕暮れの風に吹かれながら、なんとなくもの悲しさを憶えるカナカナの声が耳に心地いい。夏から秋へと移ろう兆しを感じる。私の季節の楽しみの一つです。例年、近所でも聞こえていたはずなのに…。今年はカナカナを聞かずして、すでにコオロギの声が響いているではないですか!

気になって、夕方から近所の雑木林が残っている辺りをお散歩をしてみました。ツクツクホーシは聞こえても、カナカナが聞こえない。あぁ、もう日が落ちる・・・。

もしや35度越えの酷暑でカナカナは死んでしまったのか。そもそも気候変動の影響で生まれてこなかったのか。海で獲れる魚も変わってきているというし、カナカナも生息域を変えてしまったのか。

 

カナカナはヒグラシのこと

前述でカナカナと書きましたが、カナカナは俗称で正式な名称はヒグラシです。○○セミという名前ではありませんが、セミの一種です。北海道の南部から九州まで分布しています。全長5㎝程度、緑がかった透明な翅をもち、明け方、夕方の時間帯に森林の中で集団で鳴いています。薄暗い環境を好むので、曇った日に鳴いていることもあります。

私は夏休みの終わり頃に鳴き声を聞いていた記憶があるのですが、関東での初鳴き日の調査では7月上旬という記録もあり、実は梅雨の頃から夏の間中、活動しているようです。

セミには活動しやすい温度帯があると思うのですが、それを裏付ける研究は見つけられませんでした。けれど、「九州では低山地から山地に住むヒグラシ・ミンミンゼミが、(東京付近では)平地に普通にみられる。(「セミの自然誌」 中尾舜一 中央公論社 1990)」との記載があったので、森林が豊かであれば朝晩涼しいエリアを選ぶのかもしれません。

きっと酷暑続きの現在は、夕方になっても気温が25℃を越えているため、うちの近所にはヒグラシが気持ちよく鳴ける環境がないのです。

暑すぎた今年の夏。少なくともミンミンゼミは、元気に夏を謳歌していました。セミの仲間たちはみんな夏になったら鳴くものと思っていましたが、実は繊細な生き物なんですね。あんな大音量を響かせられるのは、最適な条件がそろった時だけのようです。
神奈川の沿岸部で生まれたヒグラシたちは、鳴かずに土に還ったか、鳴きやすい環境を求めて涼しい山へ集団移住したのかもしれません。

 

参考
「セミの自然誌-鳴き声に聞く種分化のドラマ」 中尾舜一 中央公論社 1990
「セミの鳴き声調査2014から2018」 町田市環境資源部環境資源科 2020
「自然教育園におけるセミ類の最近20年間の初鳴および終鳴日の記録」 久居宣夫 自然教育園報告 第41号 2010

寄稿者 ほりえりえこ
湘南在住。小学生の娘と暮らしています。今を大切に。日々のなぜ、なに、どうしてを大切に。心が動いたこと、子どもに伝えたいことを書いています。