「山笑う」という表現があるそうです。

どんな情景が思い浮かびますか。

 

山が声を上げて笑う・・・

のは、違うだろうなぁ。

 

山がにっこり微笑む・・・

というのも、どの辺りがお顔なんでしょう。

 

もしかして、笑ってるのは昔話に出てくる山の神様とか?

いや、山の中で誰かがワハハとお祭り騒ぎをしてるのかな??

 

 

はい、どれも違いました。

「山笑う」は、俳句で春の季語だそうです。

草木の芽が出て明るくなった春の山のようすのたとえ。

なるほど、これを「山笑う」と表現したんですね。まさに今です。冬の間、葉を落としていた木々が一斉に新緑を伸ばし始め、柔らかい葉が日の光を浴びてキラキラしています。春の野山を見て、心弾む私たちの気分を山に託して、「山笑う」と。

この表現がすごく素敵だなと思いまして、少し調べてみましたところ、もともとは宋代の中国の画家の言葉だったのだそうです。原文では春夏秋冬それぞれの山の特徴を表現していて、そのどれもが素敵なのでご紹介させてください。

 

春山淡冶而如笑
夏山蒼翠而如滴
秋山明浄而如粧
冬山惨淡而如眠

春山淡冶(たんや)にして笑うが如し
夏山蒼翠(そうすい)にして滴るが如し
秋山明浄(めいじょう)にして粧う(よそおう)が如し
冬山惨淡(さんたん)として眠るが如し

・山滴る(やましたたる)・・・草木の葉で覆われて緑が滴るように見える夏の山のようすのたとえ。夏の季語。
・山粧う(やまよそおう)・・・紅葉で美しく色づいた秋の山のようすのたとえ。秋の季語。
・山眠る(やまねむる)・・・しずまりかえった冬の山のようすのたとえ。冬の季語。

 

春以外も情景が浮かぶようですよね。さすが画家の視点といいますか。その時期の色や音や空気をとらえる感性が見事すぎます。漢字一文字、一言なのに、それぞれの季節にばちっとはまっています。

 

そして、これらの説明が、小学生向けの国語辞典に掲載されていたことにも驚きました。(※「山滴る」以外は掲載されていました。)小学生も高学年になると俳句の授業があって、興味のある子は調べるのかもしれませんね。残念ながら、私が子どもの時には出会うことさえなかった表現ですが、この年になってからでも出会えて嬉しいです。

 

参考文献

「季節のしきたり和のおしえ」辻川牧子KKロングセラーズ2018
「レインボー小学国語辞典」改訂第6版 株式会社学研プラス 2019