こんにちは。

私は2019年4月から瀬戸内海の離島、小豆島で暮らしています。夫と子ども2人と横浜から移住してきました。ここでは島暮らしの日々をお届けします。

小豆島といえば「オリーブの島」。住んでみてわかった、暮らしの中のオリーブについてのお話をお届けします。

なぜ、小豆島はオリーブの島なのか?

日本にはじめてオリーブが持ち込まれたのは約400年前の安土桃山時代。宣教師が豊臣秀吉への進物としてオリーブの実一樽を献上したのがはじめてとされています。

その後、日本でオリーブ栽培が本格化したのは明治時代。日露戦争に勝利した日本政府が北方漁場の海産物を保存する方法として、オリーブオイルを使用したオイル漬けに着目したそうです。

オリーブの試験栽培地として選ばれた香川、三重、鹿児島のうち、香川県の小豆島だけが栽培に成功し、現在でも小豆島がオリーブの国内生産の9割以上を占めています。

小豆島ヘルシーランド株式会社 オリーブの森 日本のオリーブ・歴史 より一部抜粋)

 

オリーブの第一印象、スペインの思い出

オリーブの樹といえば、20才の頃、友達とスペインで見たのが最初でした。格安の団体ツアーで、ちょこちょこっと観光したあとは次の目的地にいくため長時間バスに揺られるのですが、そのときに車窓から見える広大な大地はどこまでもどこまでもオリーブの樹で埋め尽くされていました。

細い葉っぱが太陽に照らされて、遠目には銀色に光って見えました。「オリーブの葉って銀色に光るんだな」と、スペインのはっとするくらいに濃く鮮やかな青空とともに強く印象に残っています。

小豆島に移住して3年、あのときに見たスペインの空と同じく、島の空はどこまでも濃く鮮やかでした。島じゅうに、銀色に光る葉を持つオリーブの樹があり、暮らしていくうちにオリーブとの接点がさりげなくたくさんあることに気がつきました。

小豆島の暮らしとオリーブ

2019年の春、移住した直後に役場に転入届けなどを提出しにいったときのこと。

転入に伴う手続きの書類一式とともに、一枚のプリントが渡されました。

転入の記念にオリーブの苗木をプレゼントしますがいかがですか?という、役場のオリーブ課からのお知らせでした。その時はまだ2才3才を抱えての落ち着かない家庭の状況や、住居が借家だったこともあり、育てる自信がなくて辞退してしまいましたが、今思えばあれがオリーブとの小さな接点のはじまりでした。

ちなみに、小豆島町役場には全国でも珍しく「オリーブ課」という課があります。2008年に、オリーブ植栽100周年を記念して創設されたそうで、地域や学校への出前授業や栽培研究、オイル品評会などを行っています。小豆島町の住民が結婚・出産・転入・小学校入学という人生の節目を迎えたときに、オリーブの苗木を進呈するという取り組みもされています。

 

 

太陽がさんさんと当たる丘の上の、眼下に海が見渡せる場所に、オリーブ公園という大きな公園があります。風車のある風景をバックに、ほうきにまたがってピョンと飛ぶ写真を撮ることで人気のスポットでもあります。観光客も地元の人もよく訪れることの場所は、その名の通りオリーブの木がたくさん植わっています。

私も大好きな場所で、スペインでバスの車窓からみた、あの銀色に光る細い葉っぱが一年中迎えてくれます。樹のしたを歩くと自然に落ちた実や種がたくさん転がっていて、かっこうのおままごとの材料になります。子どもたちが喜んで夢中で集め、お砂場セットを使ってオリーブべんとうやオリーブケーキをつくって友達同士で遊ぶ様子は、小豆島では日常ですが、日本中探しても珍しい光景だろうと思います。

 

コロナ禍で感じるオリーブの恵み

春になると小さなポップコーンのような白い花をつけ、盛りを過ぎると風がふくたびに白い花吹雪が一面に舞うということも島に来てはじめて知りました。

去年(2020年)の6月は、ちょうどコロナの第一波が引いてきた頃でした。少し気持ちを緩め、久しぶりにオリーブ公園に出掛けた日にオリーブの葉がそよぐなかで白い花吹雪が舞いました。子どもたちがきゃあきゃあと髪に白い花を散らしながらはしゃぐ様子を見て、つかの間の平和を感じて心癒された覚えがあります。

降ってわいたような災難でいきなり日常が変わってしまい身の置きどころのない日々でしたが、大丈夫、変わらない四季の美しさもちゃんとある、ということをオリーブの白い花が見せてくれました。

 

 

その年の秋、オリーブの実が色づき始めた頃、幼稚園から園内のオリーブの実の収穫作業のお知らせが届きました。幼稚園の年間行事もコロナにより軒並み中止になっていましたが、限られた参加者による屋外の作業ということでオリーブの収穫に参加することができました。

近くに住む農家の方が指導に来て下さり、どんどん枝を切り、地面に広げたシートの上においていきます。大人も子どもも一緒になって実をひとつひとつ摘んではコンテナにいれていく共同作業はとても楽しいものでした。こんな時でも、ちゃんと秋に実は色づき、自然の恵みは変わらずにもたらされるということを感じる機会でもありました。

 

 

収穫した実は一部を新漬けに、残りはオイルにと農家の方が加工してくださり、各家庭に配られます。この幼稚園のオリーブの実とオイルが、とてもフレッシュでこくがあり、ちょっとだけとがった野性味がプラスされていて、今まで口にしてきたオイルや実とは一線を画す、生命力を感じる味わいでした。

 

 

夫はこの絞りたてのオリーブオイルと新漬けの実が大好きで、いつか庭で育ったオリーブの樹から、自家製のオリーブの新漬けを作りたいと常々言っています。

今年の秋、夫は地域おこし協力隊の職務で駐日ギリシャ大使の小豆島訪問に通訳として随行しました。オリーブの本場であるギリシャの大使が、「人間にとってオリーブは祝福である」とおっしゃったその言葉がとても印象的だったそうです。

 

 

 

小豆島に来て3年目。幼稚園の園庭に、公園のなかに、民家の庭先に、道路脇に、さりげなくオリーブの木が植えられていて、気づけばオリーブとともに暮らしていました。そしてこうしてあらためて振り返ってみると、このコロナ禍で日常に陰りがさしたときにも、オリーブがもたらす恵みにさりげなく支えられてきたことに気づきました。

来年四月に娘が小学校に上がるので、そのときには、転入時に迎えられなかったオリーブの苗木をお迎えしたいと思います。家族の歩みとともにオリーブの樹が成長していくというのも、とても豊かなことですね。

 

平和、知恵、祝福の象徴として古くから人間に愛されてきたこの植物が暮らしのなかにそっといてくれることに感謝して、また新しい年を迎えたいと思います。

 

皆様もどうぞ、よいお年をお迎えください。来年が良い一年でありますように。

 

 

参考サイト: 

小豆島ヘルシーランド株式会社 オリーブの森 日本のオリーブ・歴史

香川県観光協会 うどん県旅ネット オリーブの歴史と品質   

 

書き手・写真 :

喰代彩 (ほおじろあや)

横浜市出身、善了寺のデイサービス「還る家ともに」で介護士として働いていました。現在は小豆島にIターン移住して三年目、二児を育てながら島の暮らしについて書いています。