こんにちは。
私は2019年4月から瀬戸内海の離島、小豆島で暮らしています。夫と子ども2人と横浜から移住してきました。ここでは島暮らしの日々をお届けします。
秋も深まってきましたね。小豆島ではオリーブの実が色づき、収穫の時を迎えています。どんぐりの実も沢山落ちてくる時期ですが、このどんぐりを狙って人里に下りてくるのが…そう、イノシシです。
島に来て三年目、イノシシをはじめ、チラホラと野生動物に遭遇してきました。今回のテーマは『野生動物の棲む島』です。小豆島町が公開している鳥獣被害防止計画によると、島の野生動物による農作物・漁業への被害は年々急増しています。主にはニホンジカ、ニホンザル、ヌートリア、カワウ、タヌキ、イノシシが生息しています。毎年銃やワナによる捕獲計画がたてられ、その他にも人的被害、作物被害を防ぐために柵の設置や追い払い活動がされています。
野生動物その1 ヌートリア
町の年間の捕獲計画数が100頭、なのがこのヌートリア。
ヌートリアって何?と私は島にくるまで知りませんでした。南アメリカ原産の外来種で、近年日本でも急増しているネズミの仲間だそうです。体長40~60センチ、水辺の生活に適していて泳ぎも得意とあります。稲、ニンジン、サツマイモ、キャベツなどの野菜を食べるそうです。実際、島で家庭菜園を荒らされたという話も聞きました。
私は直接しっかりと見たことはないのですが、住んでいる集落の海沿いのブロック塀の排水溝の穴に、夕方から夜の暗い時間帯にそれらしき動物が出入りしているのはたまに見かけます。ネコよりずんぐりした胴体が黒っぽい毛で覆われ、ちょろりと長い尻尾。庭に出していたサンダルの鼻緒のところが何物かにかじられて取れてしまったこともあり、もしやヌートリアが来たのかな..?と思ったことがありました。今年の夏、玄関前に謎の動物のフンが落ちていて、形から推測するにこれもヌートリアのようでした。
野生動物その2 タヌキとニホンザル
年間の捕獲計画数150匹、とヌートリアより多めに設定されているのはニホンザルとタヌキです。
タヌキはヌートリアと同じく、いまのところ後ろ姿を一瞬見かけるのみですが、太めの胴体に短めの手足、尻尾も短く太いのでネコやヌートリアとの違いはすぐにわかります。
ニホンザルは山道でよく見かけます。学生時代に友達と初めて小豆島を訪れたときにも山道をドライブ中、何頭かの猿に遭遇した記憶があります。昭和16年に書かれた壷井栄のエッセイ「小豆島」にも、『明治の始め頃には人間の数よりも多い猿がいた』『神懸山を根城に、猿は群をなしている』と記されています。島の名勝である寒霞渓のふもとの草壁地区には今も民家のそばで常にうろうろしている猿がいて、介護施設の朝夕の送迎中によくみかけていました。
野生動物その3 ニホンジカ
年間の捕獲計画数700頭と、鳥獣被害の第2位にあがるのがニホンジカ。
被害件数が多いわりに移住して2年経っても遭遇したことがなかったのですが、今年の夏、ついにその時がきました。お盆の精霊流しが行われ、海に色とりどりの灯籠がゆっくり流れていく幻想的な風景を眺めて過ごした帰り道でした。ゆるいカーブの車道を走っていると、道路脇の藪からひょいっと姿を現したのです。あっ鹿がいる!と叫ぶ間もなく、鹿は車のライトに驚いてすぐ逃げていきました。
島の生息調査によると、大正時代に絶滅に瀕した鹿は、その後の捕獲禁止措置によってまた急増していったそうです。前述の壷井栄のエッセイには、母親が若い頃(おそらく明治中頃)、山で鹿のツノを拾い、立派なものだったので骨董屋に売り、家計の足しにした…というエピソードがでてきます。
野生動物その4 イノシシ
年間捕獲計画数2000頭、圧倒的1位はイノシシです。
最初にイノシシを見たのは移住して初めての秋の始め。皆が寝静まった深夜に外でゴソゴソとなにかをあさる音がしていたことがありました。こんな時間に誰が何してるの?と自宅の窓から音のする方を目を凝らしてよく見ると、大きな木の根本を鼻を鳴らしながら木の実を探ってゴソゴソとあさるイノシシがいました。うわあ初めて見た…!と、その夜はドキドキしてしばらく暗闇のなかの大きな毛むくじゃらの物体が食料にありつくところを観察していました。しばらく探った後、また鼻を鳴らして山へ帰っていきました。
二回めの遭遇は同じ年の秋祭りの日。その日はめったにないことでしたが職場から徒歩で帰宅していました。日が暮れた頃、あーこんな日にイノシシとか出たら怖いなぁ、道も暗いし街灯もあんまりないしなぁ、と人気のない暗い道を歩いていたら、突然道路脇の藪から大きなイノシシがジャンプして道路に下りてきました。見渡すかぎり、道路には私とイノシシだけ。
一瞬ときがとまりました。あちらのふさふさの毛むくじゃらの筋肉質な胴体に比べたら、こちらのなんと無防備なこと…!イノシシはしばらく立ち止まった後、向こう側からきた車のライトにびっくりしてまたもとの藪にジャンプして姿を消しましたが、私は車のライトに照らされて浮かび上がったイノシシの大きなシルエットがいまでも忘れられません。島にきて最大のピンチはいまだにあのときの遭遇の瞬間だなあ…と思います。
おまけ
おまけとして、こんなことがちょこちょこあります。
生きているイノシシに遭遇するだけでなく、島にいたら突然イノシシの捕獲現場や解体現場に居合わせることがあります。のほほんとリラックスしきった気持ちで「さて今日は何をしようかな~」なんて考えているときに視界に突然飛び込んでくるの捕獲・解体現場。血がしたたっていたり、頭部がなかったり、急に野生のむき出しの命が目の前に迫ってきます。
こんなかんじで、野生動物との距離は、近すぎるということはないけれど、ときにすぐそこ、という日々です。
『自然豊かな場所に生きているのは人間だけじゃない、都会にはいない大型の野生動物が沢山一緒に暮らしている。食料がなければ山を下りてくるし、うっかり遭遇することもある』という意識が芽生えたのが、移住前にはなかった初めての経験でした。
いまは、夕方以降に車を走らせていたら物陰からイノシシやシカが飛び出してくるかも、という気持ちが頭の隅っこにあります。夜道や山道を歩くときはなるべく光や音でこちらの存在を知らせてばったり遭遇しないように歩くようになりました。
イノシシはかなりの長距離でも海を泳いで島にたどり着くこともあるそうで、そんな姿を実際に見る日も近いのかもしれません。
参考
「随筆・小説 小豆島」 壷井栄著 光風社書店
小豆島町鳥獣被害防止計画
書き手・イラスト :
喰代彩 (ほおじろあや)
横浜市出身、善了寺のデイサービス「還る家ともに」で介護士として働いていました。現在は小豆島にIターン移住して三年目、二児を育てながら島の暮らしについて書いています。