戦国の世を脱して平穏な日々が訪れた江戸時代?。それに伴って町民文化が一気に花開き、相撲歌舞伎、吉原遊郭の「江戸の三大娯楽」以外にも、読書文化が庶民の間で浸透していきました。今回は、江戸時代の出版事情や江戸っ子たちの読書習慣をご紹介します。

江戸時代の識字率は世界のトップクラス!?

江戸時代になると貨幣経済の発達によって商業がより盛んになり、文字の読み書きやそろばんの必要性が高まってきました。町民や農民に読み書きやそろばんを教える「寺子屋 」の普及も大いに影響し、ごく普通の家庭の子どもも読み書きができるような環境が整いました。
1870年ごろには「10人のうちに6人は文字が読めた」という記録もあり、中国や朝鮮だけでなく、イギリスやロシアなどの先進国に比べても、識字率は大きく上回っていたようです。

木版印刷の復活で庶民に普及した書物

一定数の識字層が生まれたことによって、印刷・出版の技術にも変化が生まれます。

数千部単位で印刷されるイラスト付きの娯楽本

江戸時代の初期、活字印刷の技術がヨーロッパから日本に入ってきますが、以前用いられていた木版印刷が再び脚光を浴びることになります。
それは、出版の大衆化によってイラスト入りの本の需要が増えたから。木版印刷は1枚の木の板に仮名や漢字、ルビ付き文字やイラストが彫れ、文字が中心の活版印刷よりも便利だったのです。
さらに、木版印刷のメリットは、版木があることでもありました。印刷が終わると組んだ活字を分解する活字印刷に対し、再版ができる木版印刷は増刷にも対応可。草双紙と呼ばれるイラスト入りの娯楽本は数千部単位で印刷されていました。また、版木の残る木版印刷は本屋の財産でもありました。
昔はなかなか手に入らなかった本?。江戸時代、利便性と経済性の高い木版印刷によって大量に製本され、貸本屋業の増加などもあって庶民にとって身近なものとなったのです。

古版木は再利用・再加工
江戸時代に多くの種類が出版された、謡(うたい)のテキスト「謡本」。収録する曲は、以前に出版された版木を再利用してさまざまに組み替え、最後に出版年や出版者を印刷した「奥付」などのページを加えて印刷するケースも少なくありませんでした。
江戸っ子のリサイクル術は徹底しており、当時は売れ行きの悪い本の版木は表面を削って再利用するのが一般的でもありました。この時代、こうして印刷治術を持つたくさんの職人が生まれ、資源を無駄にしない開発の時代が積み重ね上げられていったのです。

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親しみやすい大衆的な文芸の台頭

大衆的な読書層の増加に伴い、出版文化も隆盛を極めていきました。井原西鶴の「好色一代男」、近松門左衛門の「曽根崎心中」、滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」、十返舎一九の「東海道中膝栗毛」などのベストセラーが生まれ、当時の読書文化を大いに盛り上げました。
全98巻、106冊の大作である「東海道中膝栗毛」は、恬淡にして見栄っ張り、強がりだけど実は臆病という江戸っ子らしい特性をもった弥次郎兵衛と北八が主人公。伊勢参宮や大和などを旅する間に起る失敗談などを面白おかしく描いた滑稽な紀行小説で、親しみやすい大衆的な文芸が爆発的な人気を呼びました。ちなみに、作家という仕事が日本で職業として成立するようになったのは、この頃からと言われています。
100冊を超える長いシリーズものや、新聞の元祖とも言うべき「瓦版」を楽しんでいた江戸っ子たち。その読解力と読書熱はなかなかのものだったようです。

人々に欠かせない娯楽文化として定着

当時の浮世絵や絵画を見ていると、床に寝転がって読書を楽しむ男性や、なんとも楽しそうに本をめくる女性の読書図が多く登場します。これらの絵は、「教養としての読書」から「娯楽としての読書」へと価値観を変化し、江戸時代に花開いた読書文化が人々に欠かせない娯楽文化として日本に定着していることの現れともとれるでしょう。“読書ゼロ”が憂慮される昨今とは対照的でもありますね。
秋の夜長、江戸時代から長らく続く娯楽文化をゆらりと楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

参考:

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