- 住職のつぶやき
- 2015年8月2日
住職の学びほどくシリーズ②介護に活かす長屋の智慧(「椀と箸持って来やれと壁をぶち」~くすっと笑えて温かい 江戸の長屋をのぞいてみよう~を読んで)
善了寺には「還る家ともに」というデイサービスがあります。お寺のデイサービスというのは、ちょっと珍しいかもしれませんね。素敵なスタッフさんに恵まれ、また、ご門徒のみなさんはじめ、多くの方々のボランティアを頂き今年で、10年になります。自宅開放型というスタイルで住職が住む「庫裏」と呼ばれる場所を開放して運営しています。
長屋暮らしには、このデイサービスの暮らしに生かすヒントがたくさんあると思います。それは、デイサービスという場が、「老い」を通しながら人間の日暮と向き合う場でもあるからです。
介護に活かす長屋の智慧
トイレの話が出てきましたね。トイレのあり方は、生活文化を創っているのだと思います。江戸っ子気質と開放的なトイレとの関係は、実は大切な意味をもっています。たかだか、トイレの話と思わないでください。トイレのあり方は、私たちのいのちを支えている生活文化そのものなのだと思います。
今まで、できていたことができなくなる・・・。当たり前のことができなくなるほど、事実を受け止めることが難しいですよね。そんな時、できない自分の口惜しさを受け止めて、一緒に「生活を創ってくれる人」が必要なのです。江戸時代にもどりたくても戻れないのと同じように、現代医療をもってしても回復できないこともあります。その時こそ、老いを受け止めながら、生活を一緒に創るという視点が大切なのです。それには、「老い」を、壊れた機械のように受け止めるのではなく、新しい生活の始まりと受け止められる人間と関わる豊かな智慧と慈悲が必要だと思います。
「老い」は大仕事、何気ない日常の大切さ
長屋の助け合う生活の様子が出てきます。ここにもたくさん人とともに生きる智慧があるのだと思います。日常から多様な人と関わることを大切にすること。当たり前ですが、できていない私たちの社会のあり方があるのではないでしょうか。私は、デイサービスに来られるお一人おひとりにたくさんの学びを頂いています。老いを迎えることは大仕事です。ご家族のご苦労にも頭がさがります。だからこそ、ご家族だけではなく多様な人と関わる何気ない日常が大切なのだと思うのです。人生のほとんどは、雑談です。長屋の生活も雑談が飛び交っていたことでしょう。落語にもその様子がよくできてきます。でも、雑談には大切な思いが込められているのではないでしょうか。
「おう、八っちゃん、今日はどうしたい。」「なぁ~にちょっとご隠居の顔が見たくてよってみたんですわ。」
何気ない会話ですね。でもお互いを気にしているというメッセージがよく伝わってきませんか。お年寄りとの会話もほとんど雑談です。何気ない日常を大切にするからこそ、関わりが育まれていきます。お風呂になかなか入ってくれなかった方が、入ってくれる時のうれしさ。食事をなかなか食べてくれなかった方が、おいしそうに一口食べてくれたありがたさ。日常に生きる何気ない関係こそ、いのちを支えているのだと思います。
遊びにはずむ、みんなの笑顔
だからこそ、「遊び」が大切だと思っています。デイサービスもよく遊びます。それこそ、カルタやトランプは当たり前です。「遊んでばっかりで・・・。」どこからかそんな声も聞こえてきそうですが、大切だと思います。遊びの中で、関係が豊かに育まれていくからです。できることも限られているのですが、何気ない工夫や役割の変化・・・。それこそ多様です。遊びも江戸時代と現代では、ずいぶん違いますね。でも、学ぶことはたくさんあると思います。生と死を共に感じる生活文化を私たちは、遊びの中に自然と育まれていたのだと思います。敵を倒すことばかりが遊びではありません。将棋のように敵を仲間にしていくあり方もありました。年を取って遊んでばかりではなく、遊びに育まれる多様な関わりが、いのちを支えているだと、もう一度見つめなおしてみたいと思います。
長屋の良さを現代に生かす
「向こう三軒両隣」という言葉ができきますが、都市化している生活文化の中では、その言葉そのものが通じなくなっています。何故なら物理的に実感できなくなっているからです・・・。考えてみてください?ヒントはマンションです。「向こう三軒」がないという構造が本当に多いですね。しかも、両隣も何をしているかわからない・・・。だからこそ、何気ない日常の関わりこそがいのちを支えるという実感が持てなくなっているのかもしれません。建築物を創りかえることは容易ではありませんが、長屋の生活から学ぶことはたくさんあると思います。そして、それを現代の生活に活かしていく。そんな、現場が実はデイサービスの可能性であるのだと思っています。
住職の学びほぐしシリーズ②でした。お付き合いありがとうございました。是非、コラム「椀と箸持って来やれと壁をぶち」~くすっと笑えて温かい 江戸の長屋をのぞいてみよう~ を読んでみてください。
http://www.www.chadeau.com/20150720/